2018年上半期に読んだ本10選

2018年上半期に読んだ本を振り返ってみて、これはよかった!という本を10冊ご紹介いたします。2018年に発売された本ばかりではないのでご注意を。

フィクション編


「天涯無限」田中芳樹(光文社)
待ちに待ったアルスラーン戦記の最終巻。アルスラーンはパルス王国を治めることができるのか、ザッハーグとは何だったのか、仲間たちはどうなってゆくのか……。英雄叙事詩の風格を備えつつ、ただの勧善懲悪ではない結末が用意されている。完結まで30年もかけて尚、普通のハッピーエンドにはしてくれない田中芳樹。さすが「死神」と呼ばれるだけあって、最終巻でもどんどん主要人物が死んでゆくが、その最期に著者の愛を感じる。

 


「ヨハネスブルグの天使たち」宮内悠介(早川書房)
紛争とSFという組み合わせで展開される連作短編集。それぞれの短編をつないでいるのが日本製愛玩用ロボット。初音ミクを彷彿とさせるこの愛玩用ロボットは、用途の割にオーバースペックな堅牢性により兵器ロボットとして転用される。このロボットが各地で「落下」を繰り返すシーンが本書のキービジュアルになっている。途上国の紛争、先進国のテロ、日常に倦んだ狂気。それぞれの場面で彼女たちは落下し続ける。伊藤計劃と同じくらい衝撃を受けた作品。

 


「異常探偵 宇宙船」前田司郎(中央公論新社)
人の死角に入り込み、音もなく現れては消える怪人・空気ゴキブリ、小児性愛者であることを隠しながらどうにか慎ましく生きる「お嬢さん」、少年の心を持った知力ゼロの三十路の美青年、人には聞こえない声を聞く探偵・宇宙船。出てくる人物はみな「普通」から逸脱した人たちだ。そんな異常な人間たちが異常なまま走り出すと、事件が解決へ動き出す――。不思議なことに、表紙イラストの雰囲気を裏切らない、ほんわか感も常に漂っている。

 


「ヒストリア」池上永一(角川書店)
構想20年の超大作。沖縄戦で死地を彷徨い、戦後の闇市で成り上がり、追われる身となって南米ボリビアへ渡る。気性の激しい美貌の女が戦争と革命の時代を生き抜き、家族、友人、そしてボリビアとの絆を築くまでの大長編だ。沖縄の基地に対する問題意識、南米文化への理解、冷戦期の国家謀略など、いろんな要素てんこ盛りで、ダレることなく一気に読める。

 


「すべて真夜中の恋人たち」川上未映子(講談社)

誰かと自然に言葉を交わすこともできないくらい自信のない冬子。居心地の悪くなった会社を辞めて、フリーの校閲者となり、部屋の中でひとりゲラと向き合う日々。何かを主張したり、自分の考えを持つこともない。そんな冬子に対して周りの人間は「あなたを見ているとイライラするのよ」「毎日何が楽しいの?」といった心無い言葉を投げかけてくる。そんな生活の中で、三束さんという男性に出会い、冬子の単調な日々に変化が表れ始める。恋をして初めて「他人と自分を比べる」感覚を覚えてゆく冬子の様子が、「自分もかつて通った道だ…」と胸が苦しくなった。繊細で綺麗な恋愛小説。

 

ノンフィクション編


「絶滅危惧職、講談師を生きる」神田松之丞、杉江松恋
いま人気急上昇中の若手講談師・神田松之丞のインタビュー本だ。落語と違い、長い低迷期にあえぐ講談界に誕生した久々のスター。こう書くと順風満帆に見えるが、本人はいたってネガティブで陰気な性格なのが伝わってくる。深夜ラジオで下品で陰気なトークをしていたのを聴いていたこともあり、あまり意外ではなかったが、あらためて生い立ちなどを知ると納得感があった。

 


「黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い」畠山理仁(集英社)
「泡沫候補」とは選挙で当選する確率が限りなく低く、多くの有権者やマスコミから相手にされない候補のことをさす。立候補者の届け出一覧には掲載されても、新聞記事に大きく載ることもなければ、ワイドショーで長尺で取り上げられるわけでもない。おまけに得票率が一定の比率を下回れば数百万という供託金が没収されるのだ。それでもなぜか、様々な選挙に立候補しつづける者たちが居る。そんな彼らを筆者は敬意をこめて「無頼系独立候補」と呼ぶ。この本はそんな無頼系独立候補を追ったノンフィクションだ。

 


「〔あて字〕の日本語史」田島優(風媒社)
本書は単なる「夜露死苦」のようなものだけを「あて字」として扱っているのではない。そもそも日本の言葉を中国の文字で表そうとした古代から「あて字」は始まっているということに、私は初めて気づかされた。現代社会で見られるあて字から、万葉仮名や宣命体などまで、「漢字で言葉をどう記すのか」という視点で日本語史をまとめた良書である。

 


「日本の気配」武田砂鉄(晶文社)
日々我々が目にする政治状況、流行、事件で使われる言葉を丹念に拾い、そこから日本を支配する「空気」にすらなる前の「気配」を読み取っていく。取り上げる言葉は政治家や有名アーティスト、スポーツマンなど凡人とは違う世界の人たちのものが多い。だが凡人の私にも、彼らの言葉は影響しているのかもしれない。間違っていることに間違っていると言い続けたら発生する「面倒な奴、議論を停滞させる奴」という空気に怖気づいていないだろうか。「みんなで盛り上げようとしているのに、反対ばかりする奴」というレッテルを張られないように沈黙していないだろうか。「ムカつくものにムカつくと言うのを忘れたくない」という著者の言葉は、時代の空気に飼いならされた我々に響くに違いない。

 


「師匠、御乱心!」三遊亭円丈(小学館)
昭和の大名人・三遊亭円生の弟子・円丈の視点から書いた「落語協会分裂騒動」の顛末記。真打昇進を果たしたばかりの円丈に待ち受けていたのは師匠の協会脱退。おまけに弟子である自分は何も教えてもらっていない。独断と偏見で結構、それでもあの騒動について教えてくれる貴重な一冊だ。せっかく真打になったのに寄席にも出られず、苦悩の日々が続く若き落語家の苦闘のノンフィクションとしても楽しめるに違いない。

 


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