「八月の博物館」を読んだ感想

「八月の博物館」瀬名秀明(角川文庫)

どんなに作為的なシーンでも、物語に夢中になった頃があった。だが、気がついたら物語に没頭することが無くなっていた。どんな物語を見ても「はいはい、このパターンね」。この小説は、物語に夢中になれなくなってしまった小説家が、小説の意味を問い直すために書き始めたものだ。私のように物語を失ってしまった大人に向けて書かれた「果てしない物語」と言っても良い。

小学生トオルが、夏休みに見つけた「博物館の博物館」。博物館を展示するという博物館でトオルは一人の少女に出会い、エジプトに魅せられた考古学者オーギュスト・マリエットへつながってゆく。トオルと少女は古代エジプトと現代を行ったり来たりする謎解きの冒険へ踏みだし、苦悩する小説家は物語を取り戻してゆく。いくつもの視点で古代エジプト史をたどりながら、精密な構造のメタフィクションは鮮やかに円環へ回収される。かつて「果てしない物語」が私の世界と地続きの場所にあったように、この小説も小説家を通して読者と地続きになっている。

物語を取り戻してほしい。取り戻したい。そんな作者の願いがひしひしと伝わってくる本だった。

熱いエジプトの風を感じたい、古代史ロマンに浸りたい。そんな人にもおすすめしたい。


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