「生き抜くための俳句塾」を読んで

「生き抜くための俳句塾」北大路翼

良い俳句を作りたいと思ったとき、なにが必要なのか。言葉のセンスももちろん必要なんだろうが、著者に言わせれば、こういうことらしい。

「思い通りに生きればいい。『不健全』な心にしか優良な詩は宿らない」

著者は新宿歌舞伎町で夜な夜な句会を開く「屍派」の家元・北大路翼。小説にでも出てきそうな無頼な生活を送る著者に言わせると、たいていの奴は俳句の作り方がわからないのではなく、感動の仕方が分かっていない。常識に洗脳されて、喜怒哀楽も他人任せにしている。そんな奴が俳句を上達させるには、まず自分を磨くことが必要だという。そのため本書はどちらかというと「生き方の指南書」に近い。
本気で遊ぶことを勧め、すべての依存症を愛し、反省と謙虚を退ける。メディアなんか見ないで、己を過信しろと焚きつける。確かに、常識と周りの顔色を気にしていたら良い詩ができるわけがない。非常識と敗北を転化してできた俳句は、そりゃあ面白いに決まっている。

太陽にぶん殴られてあったけえ 北大路翼

もちろん心構えだけを説いているわけではない。作句に際して、かなり具体的な連想法も示されている。独自の言葉の展開法、イメージの広げ方を具体例を挙げながら教えてもらえる。この連想法のトレーニングを積めば、いつになく俳句の幅を広げられるだろう。季語や切れ字等のお作法的なことではなく「俳句を思いつくための思考」を手に入れたい人には、本書がきっと役立つだろう。

おそらく他の俳句入門書には無い本書の特徴は、句会の実況を載せている点だと思う。ふつうの俳句入門者は、句会なんて行ったことがない。句会がどんなことをする場所なのか、どんな雰囲気でやっているものなのか、見当もつかない。だから句会未経験者にとっては、句会での会話を丁寧に載せているこの部分が一番面白いのではないかと思う。ただ屍派の句会はかなり独特なルールで実施されているので、一般的な句会とはかなり違うものらしいので注意が必要だ。それでも俳句にとって句会という場が重要であることが十分に伝わってくる。

例えば、お題は「『し』と読める漢字全般」。

十三夜はにかみがちな施設の子 裕

一同 おお~!
(一同の反応が大事。現場に来てもらうのが一番だが最初の反応でほぼ句の良し悪しがわかる。屍派句会が最短最速である所以。)
翼  いいね、切ないね。
龍  十三夜は月なんだけど、十三歳の青春の夜でもいいし。
翼  虐待されてるよね。煙草の痕が腕中にありそう。
龍  満月にはあと二個足りないんだ。
翼  もう一箇所くらい傷つけられる余地が残ってる。

結果として詩になった電気屋 穂佳

一同 おお~(笑)。これいいね、いいじゃん。
翼  感電しちゃった感じ? なんか急に神々しい光とか放っちゃって(笑)。
利行 伝説的になっちゃう。
龍  だいたい町の電気屋ってどこもなんでそれでつぶれねえの? みたいなとこ多いんだよな。おじさんが一人でやってて「Panasonic」とか書いてて。まだ「National」か。看板みたいなのが詩になってる可能性もあるな。

句会の書き起こしのほかにも、悩み別作句技法(むしろ人生相談に近い)や、著者推薦の二十五句なども掲載されている。初心者には二十五くらいがちょうど良いと私は思う。張り込んでデカい句集を読み始めても、結局ダレてしまう確率が高いからだ。私のような飽きっぽい人間はとくに。

ちなみに著者は種田山頭火や今井聖に触発されて俳句を始めたようだ。私も俳句に興味を持ったきっかけが「ライク・ア・ローリングストーン 俳句少年漂流記」という今井聖の著書だった。なるほど北大路翼が面白いと思うわけだった。

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