ロス暗黒街のギャング探偵小説「IQ」を読んだ感想

「IQ」ジョー・イデ(早川書房)

新しいコンビ物の探偵小説の誕生だ。場所はロサンゼルス、ギャングが幅を利かせる街。主人公は孤独な黒人青年、アイゼイア。彼のもとには様々な依頼が飛び込んでくるが、金を持っている奴からしか謝礼は受け取らない。ある日、アイゼイアは腐れ縁ともいうべき元ギャングの実業家ドットソンから依頼を受ける。この二人のコンビを軸に、依頼者である有名ラッパーの命を狙う犯人を追いつめていく。

尋常でない観察力と推理力を持ったアイゼイアはIQという名で知られ、一方の元ギャングのドットソンは根っからのワル。アイゼイアはドットソンの粗暴さに嫌気がさしているし、ドットソンは自分を小馬鹿にするアイゼイアに一泡吹かせることしか考えていない。まさに現代の黒人街に誕生したホームズとワトソンのようなコンビで、かなりベタな設定だと思われるかもしれない。いかれた殺人鬼や殺戮に餓えた猛犬など、探偵小説におなじみの存在も欠かさない。だが、なぜこの二人が腐れ縁となり、ともに事件を解決しているのか明かされていく様がこの小説の面白いところだ。ラッパーの事件を追う現在の時間軸と同時に、二人の出会いと衝突を描く過去の時間軸が進んでいく。こういったベタなコンビ物は、本筋の事件解決もさることながら、コンビ結成前のエピソードにこそファンは熱くなる、ということは皆さんも身に覚えがあるはずだ。要はこの小説は「現代編」「過去編」「修行編」を一気に楽しめるので、一冊で三度おいしいのだ。

この小説はアメリカのミステリ新人賞を総なめにした話題作であり、かつ日系アメリカ人が黒人青年を書いた異色作でもある。作中にはスラングが頻出し、マイノリティ同士の抗争が描かれたりする。日本車がたびたび登場するし、現代社会でおなじみのグーグルなんかも普通に出てくる。普段は知ることのないアメリカの多様性の一面を垣間見ることができるのも、この作品の特筆すべき点だろう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください