人間国宝・柳家小三治が語った「落語家論」

柳家小三治「落語家論」ちくま文庫

人間国宝・柳家小三治が、脂の乗り切った40代の時に書いた芸談本だ。もとは「紅顔の噺家諸君」へ向けて落語を論じた雑誌連載で、当時の寄席や落語界の空気をよく伝えている。落語家になりたての若者に向けて書いたものだから、若手への小言も満載。「いま真打になって売れているあの人やこの人も、こんな風に叱られていたのかな」なんて想像しながら読んでも楽しい。

「落語を論じている」なんて書くと、「この噺のこの部分は、こんな風に演じた」だとか「この登場人物はこういうやつだ」とか、噺を具体的に分析している本なんだろうと思われるかもしれない。残念ながら、そういう本ではない。「落語家とはこうあるべし」なんてことも、少ししか書いていない。書いてあるのは「俺はこんな落語家だ」ということ。

落語は江戸・明治の空気を今に伝える演芸だが、1939年生まれの小三治にとってもすでに遠い昔のこと。趣味はバイクだし、普段着は洋服だし、なぜかスパゲッティについて論じる。それでも小三治から古典の世界を感じられるのは、どうしてなのか? その答えがこの本には詰まっていると思う。趣味嗜好、ものの考え方、人との付き合い方、ちょっとした振る舞い。そういったこまごましたことについて書き、「俺はこんな落語家だ」と陰に陽に伝えている。きっとその一つ一つから、江戸・明治の空気につながるものを感じるだろう。だからこの本は、ある人にとってはエッセーであり、ある人にとっては落語家論であるのだ。


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