人類の滅亡から再生まで、ディストピアSF小説「七人のイヴ」

「七人のイヴ」全3巻
ニール・スティーヴンスン(早川書房)

ある日、月が七つに分裂した。各国の計算によると、その破片が2年後には地球に降り注ぎ、ありとあらゆる生物は絶滅する。残る2年間で果たして人類は何をすべきか――。これだけ聞くと、よくある近未来SFの設定だと思われるが、この小説のすごさは「極限状態における人間性」と「人類の盛衰」を描いている点だと思う。ミクロとマクロの両方の視点から人間について考えさせられるはずだ。

人類は国際宇宙ステーション(愛称イズィ)を中核に、有望な若者と多くの生物遺伝情報を宇宙空間へ逃がす箱舟計画を実行する。せっせとロケットを打ち上げて宇宙に物資を送り、人類の生存空間を拡充させる。月の破片が降り注ぐ「ハード・レイン」現象が終わり、再び地球に根を下ろすときのために。著者は、いま存在する科学技術を大きく逸脱する技術は登場させないと決めていたようで、それが細部のリアリティを生んでいる。国際宇宙ステーションが拡充されていくさまは、メカニックファンなら大いに楽しめる要素だろう。

箱舟計画では、各国から若者を選抜して宇宙へ送り込む。この小説では、宇宙へ行く若者を選ぶ過程も丁寧に描かれている。表向きは「くじ引き」となっているが、そんなわけはあるはずもないこと。自分たちの中から若者を宇宙へ送り込むことで、集団パニックを回避していること。「ハード・レイン」の直前に、国際ルールを破って宇宙へ逃れてくる権力者がいること。あと2年で人類が滅ぶと分かっていても、なぜか繰り広げられる政治ゲームにきっと辟易するだろう。

だがこの小説では、「極限状態」にあるのは死ぬことが決まっている者たちよりも、死を免れた者たちだ。彼らは閉ざされた空間で、このさき何千年もの時間を過ごさねばならないからだ。「ハード・レイン」が始まって、残る人類が宇宙にしか存在しなくなってからは極限状態の密室劇が始まる。メンバー間の権力争い、軋轢、離反を繰り返す様を見ていると「あと数百人しか生き残ってないんだから、仲良くしろよ!」と言いたくもなるが、どんな状況でも争いを止めないのが人間の性らしい。

以下、ネタバレを含む。

権力闘争と戦争を経て、最終的に七人の女性にまで減ってしまうが、ここから人類の反撃が始まる。だがつくづく悲しいのが、人類がたった七人に減ってしまってもなお、彼女たちは先の権力闘争によってできた溝を埋められないことだ。この埋められない溝はそのまま、「七つの人種」となって次世代の人類に受け継がれていく。この人種の違いが、次世代人類の戦争へとつながっていくさまに、著者の問題意識を感じた。こうして中盤の密室劇が、マクロな視点で人類を描く歴史書のように変化する。

ここで終わるかと思いきや、なんと5千年後に人類が地球を再生させる時代まで描かれる。本当に射程の広い小説で、読み切るのはなかなかの苦労だった。だが、つまづきながらも読んだ甲斐のある内容だった。


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