「すべて真夜中の恋人たち」を読んだ感想

「すべて真夜中の恋人たち」川上未映子(講談社)

誰かと自然に言葉を交わすこともできないくらい自信のない冬子。居心地の悪くなった会社を辞めて、フリーの校閲者となり、部屋の中でひとりゲラと向き合う日々。何かを主張したり、自分の考えを持つこともない。そんな冬子に対して周りの人間は「あなたを見ているとイライラするのよ」「毎日何が楽しいの?」「あなたは私の人生の登場人物じゃないのよね」といった心無い言葉を投げかけてくる。そんな生活の中で、三束さんという男性に出会い、冬子の単調な日々に変化が表れ始める。

自分を持たないということは、他人と自分を比べることもない。三束さんに恋をして、冬子は初めて他人と自分を比べるという感覚を身につけていく。冬子の一人称で語られる文章から、だんだん彼女が「自分とほかの女を比べてしまう」感覚を理解しはじめる様子が分かってくるのだが、その描写がとても巧みなせいで読むのが辛くなってしまった。これまで冬子は周りの人間からの心無い言葉に、苦しさや居心地の悪さをなんとなくは感じていた。だがそれが輪郭を帯びて感じられるようになると、怒りや嫉妬心や反発心が生まれる。そうすると人はこれまでとは違う行動をとるようになるのだ。

これは私も通ったことのある道だと思うと、読んでいて苦しくなった。私はもう冬子ではなく、冬子の周りの心無い人間に近いということがはっきりしてしまったからだと思う。だがラストシーンで冬子は仕事相手の聖と、新しい関係に踏み出している。引っ込み思案の冬子とは正反対のこの女性は、ただの心無い人間としてだけでなく、同じ悩める人間としての一面も描かれている。そのことが私にとっては救いだった。


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