「銀河英雄伝説1黎明篇」の名言集(上)

田中芳樹「銀河英雄伝説1黎明篇」(創元SF文庫)

アニメが始まったこともあり、銀河英雄伝説の第一巻を再読しました。すでに内容を知っていても読む手が止まらない小説でした。壮大かつ緻密なストーリー、魅力的なキャラクターなども重要なポイントですが、私としては「地の文のかっこよさ」を推したいです。下手に真似しても回りくどくてキザなだけの文章になってしまいそうですが、田中芳樹が書くとどれも痺れます。地の文ですらそうなのだから、登場人物の台詞のかっこよさは言わずもがなです。
そういう良さを語りたい!との思いから、今回はただの感想文ではなく「名言集」というかたちで書きたいと思います。地の文も含まれていますから、ラインハルトやヤンたち登場人物の名言集というよりも、田中芳樹の名言集です(笑)

 

「民衆がルドルフ万歳を叫ぶ声が私の部屋にも聴こえてくる。彼らが絞刑吏に万歳を叫んだことを自覚するまで、どれほどの日数を必要とするだろう」(19p)

人類社会が頽廃に覆われ、衰退の一途をたどる時代。この荒み切った社会を打破してくれると民衆がもろ手を挙げて喜んだ独裁者ルドルフ誕生の瞬間に、とある共和政治家が日記に書き残した一節だ。独裁者の誕生を望むのはいつの時代も民衆なのだと思い知らされる。
 

「キルヒアイス、こう考えてみたことはないか?ゴールデンバウム王朝は人類の発生以来、つづいてきたわけじゃない。始祖はあの傲岸不遜なルドルフだ。始祖がいるということは、それ以前は帝室などでなく、一市民にすぎなかったってことだ。もともとルドルフはなりあがりの野心家にすぎなかった。それが時流にのって神聖不可侵の皇帝などになりおおせたんだ」
「ルドルフに可能だったことが、おれには不可能だと思うか?」(48p)

ルドルフの死後数世紀がたった時代。常勝の天才と呼ばれたラインハルトが少年時代に親友・キルヒアイスに語った言葉だ。神聖不可侵にして絶対の皇帝に対する、不敬としかいいようのない考えを持っていたラインハルト。歴史を変える人物は、いま存在するものを相対化する目を持っているのかもしれない。

 

息子の質問に彼はこう答えた。
「民衆が楽をしたがったからさ」
「楽をしたがる?」
「そうとも。自分たちの努力で問題を解決せず、どこからか超人なり聖人なりがあらわれて、彼らの苦労を全部ひとりでしょいこんでくれるのを待っていたんだ。そこをルドルフにつけこまれた。いいか、おぼえておくんだ。独裁者は出現される側により多くの責任がある。積極的に支持しなくても、黙っていれば同罪だ……」(55p)

不敗の魔術師と呼ばれ、用兵の天才として名を馳せたヤン・ウェンリーが子供のころ、父と交わした会話だ。ここにも民衆と独裁者の関係について、田中芳樹の考え方がはっきりと出ている。銀河英雄伝説を貫くテーマとして民主制と独裁制の対比があると思う。ヤン・ウェンリーの住む自由惑星同盟はルドルフの銀河帝国から独立し、民主主義国家として理想を掲げて建国された。だが数世紀を経てヤンの時代には理想はくすみ、議会の首脳部は腐りきっている。一方の銀河帝国は、強烈なカリスマ性を誇ったルドルフの死後、末裔たちがいまだその帝位を占め、階級制度に守られた少数の貴族が膨大な利権を独占する。スター・ウォーズあたりは帝国側が完全な悪者だが、銀河英雄伝説において民主制と独裁制は対比されているだけで、どちらかが絶対悪として描かれることはない。そのことがこの物語に、ただの英雄譚や勧善懲悪物には無い深さと広さを与えているのだと思う。

 

「要するに三、四〇〇〇年前から戦いの本質というものは変化していない。戦場に着くまでは補給が、着いてからは指揮官の質が、勝敗を左右する」(64p)

ヤン・ウェンリーは歴史家志望だったにもかかわらず、生活のためにあれよあれよと言う間に軍人になってしまった人物だ。深い歴史の知識が彼を非凡な用兵家たらしめていることをよく表している台詞だ。

 

誰のために、なんのために、見も知らぬ相手と殺しあうのか、という疑問は、そのとき兵士たちにはなかった。生き残ったことと勝ったこととを、彼らは単純によろこんでいた。しかし数時間後には、生き残った彼らのうち、幾人かがあらたな死者の列にくわわらねばならないのだ。(79p)

先刻の華麗な勝利のあと、兵士たちに訪れる一瞬の安らぎ。だが田中芳樹はそんな勝ちを約束された兵士たちの中にも、戦争の現実を垣間見せる。敗戦国にはもちろん、戦勝国にも死者は存在する。当たり前だが、顧みられることがない一面を田中芳樹は書き漏らすことがない。
 

戦う以上、犠牲が皆無ということはありえない。だが同時に、犠牲の増加に反比例して戦勝の効果は減少する。この双方の命題を両立させる点に用兵学の存在意義があるはずだ。つまり最小の犠牲で最大の効果を、ということであり、冷酷な表現をもちいれば、いかに効率よく見方を殺すか、ということになるであろう。(87p)

こちらも先の一節と同じ思想がうかがえる。戦争というのは、味方の人命を効率よく使って敵国の兵士を殺すことなのだ。祖国とか正義とか理想とか勇敢とか民衆を守るとか、そういった言葉をはぎ取っていくと、この現実が見えてくるのだと思う。
 

「心配するな。私の命令にしたがえば助かる。生還したい者はおちついて私の指示にしたがってほしい。わが部隊は現在のところ負けているが、要は最後の瞬間に勝っていればいいのだ」(90p)

これはヤン・ウェンリーの台詞のなかでも特に有名なものだ。どこの名言集でもこの部分は取り上げているだろう。たしか現在放映しているアニメでも使用されていたと思う。上司である総司令官が負傷して指揮権を委任され、味方の軍勢がボロボロの状態で発した言葉だ。かっこいい以外の言葉が見当たらない。
 

「この国は自由の国です。起立したくないときに起立しないでよい自由があるはずだ。私はその自由を行使しているだけです」
「ではなぜ、起立したくないのだ」
「答えない自由を行使します」(138p)

帝国との会戦で大損害を被った自由惑星同盟は、敗戦から目を背けさせるためにヤンを英雄として引き立てた。そして国民の厭戦気分を吹き飛ばすため開いた式典で、国防委員長が戦意高揚のためのスピーチをぶった。会場は拍手喝采、みな総立ちだったのが、英雄である本人が起立しない。ヤンは作戦首脳部の無能さを棚に上げて、自分は安全な場所から国民を戦地に喜々として送り込む国防委員長に喧嘩を売ったのだ。
 

「恒久平和なんて人類の歴史上なかった。だから私はそんなもののぞみはしない。だが何十年かの平和でゆたかな時代は存在できた。吾々が次の世代になにか遺産を託さなくてはならないとするなら、やはり平和がいちばんだ」(183p)

どうもヤンの名言集みたくなってきてしまう。歴史家志望なだけあって、台詞にいちいち含蓄があるからか。
 

「人質をとったつもりだろうが、きさまら叛徒と帝国軍人を同一視するなよ。司令官閣下は死よりも不名誉をおそれる方だ。きさまの生命をまもる盾などないのだぞ!」
「司令官閣下は、過大評価されるのが迷惑そうだぜ」(193p)

難攻不落といわれたイゼルローン要塞陥落の一場面、薔薇の騎士連隊隊長・シェーンコップの見せ場だ。帝国軍人のふりをして要塞司令官を人質に取ったシェーンコップ。司令官の部下は閣下もろともシェーンコップを殺すつもりが、司令官はけっきょく降伏を選んだ。
 

「人類の歴史とともにゴールデンバウム王朝があったわけではない。不死の人間がおらぬと同様、不滅の国家もない。余の代で銀河帝国が絶えて悪い道理がなかろう」(223p)

暗愚と思われた当代の皇帝・フリードリヒ四世。実は深い虚無の淵にいる人物であった。皇帝を中心とする国家でありながら、皇帝本人は破滅を夢見ているという空恐ろしさを感じさせる一場面だ。そしてラインハルトが最も敵視する人物がラインハルト自身と同じ台詞を吐くという、皮肉な場面でもある。
 
 
これでだいたい一巻の中間地点を折り返したぐらいです。長々と書いてしまったので、残り後半は次回!お楽しみに!


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「銀河英雄伝説1黎明篇」の名言集(下)

2018年6月17日

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